普段Cubaseを使って作編曲・ミックスマスタリングを行っている私が、AbletonのLive11を使ってみた結果物凄く楽しかったのでそれを素直な気持ちで紹介してみます。
初心者向けというよりは、一定以上知識があるユーザーへ向けた内容となっているかもしれません。しかし、他のレビュー記事とはすこし違った視点や切り口になっていると思われるので、初心者の方にも是非読んでいただきたい内容となっています。
Ableton Liveを使っている有名アーティスト
Liveは世界でもっともシェアが高いDAWとして知られています。
日本では圧倒的にCubaseが人気で、ダンスミュージック向けではFL STUDIOの方が人気の印象が私にはあります。
しかし世界ではLiveということで、実際どういう人たちが使っているのか少し紹介します。
実際にはビッグネームだけでも相当な数の使用者がいるようですが、書いていくとキリがないので今回はこの4人で。
ちなみにダンスミュージック・ヒップホップ向けではありますが、普通にバンド系などジャンル関係なく使用者は多いです。
kz
有名ボカロP・DJのkzさん。
私の一番好きなボカロPで、Tell Your Worldが一番好きなボカロ曲です。
Liveのプロモーションビデオなんかにも出演されていたので、Abletonでは日本人Live使いのシンボル的な立ち位置かもしれません。
Skrillex
ベースミュージック界のスーパースターであり、From First To Lastというスクリーモバンドの元フロントマン。また私の好きなボーカリストであるイギリスのEllie Gouldingの元カレです。
上記の曲は最近リリースされてめちゃくちゃ好きだったので有名楽曲を押し除けて紹介。
Armin Vun Buuren
トランス界の帝王もLiveユーザー。
Ultra Japanなどでも来日していて有名なDJですね。
Tim Henson
DAWの特性上ダンスミュージック・ヒップホップ系が多くなってしまうので最後はバンド界隈。
常にモダンプログレッシブの最先端を行くバンド『Polyphia』のギタリストTim Hensonです。(よく分からない日本語のTシャツを着ている方)
ギタリストの中でも色んなエフェクトを使って先進的な音作りをいつもしているような印象です。
そしてとてもギターがじょうず……
筆者の自己紹介
まずは私が普段どういった環境でどんな音楽を扱っているかを簡単に紹介します。
作編曲
普段の活動とは別名義でこのブログを好き勝手に書いているので、もちろんポートフォリオなんかはありません。
作編曲では基本的に歌物を作っています。
2000年代のavex系の延長みたいな感じを作っていることが多いです。
自分のアーティスト活動と曲提供で9:1くらいな感じなので、バリバリプロの人と比べるとお仕事感覚は薄めだと思います。
その他にもまた別名義でLo-fi Hip-hopを作っています。
最近Technoにハマっていい機会なので、以前から気になっていたLiveで作ってみようかなと思ったのが事の次第ですね。
ミックス・マスタリング
こちらも同上、ポートフォリオはありません。
ミックス・マスタリングでは自分の曲を扱っているのはもちろん、メタル・ハードコアが好きでそちら方面の依頼をいただいています。
この辺りみたいな感じ(それぞれ携わっているエンジニア)に影響を受けています。
Live11を使ってみた感想・レビュー
というわけで前述の通り、今回はTechnoをサンプルパックベースで作ってみました。(曲は別名義で公開してしまったのでここでは紹介できず……)
やっていた中でもちろんすべての機能を使えたわけではなく、あくまでサンプルパックベースのTechno制作に必要な部分だけでしたが、ほぼほぼ戸惑う事なくスムーズに制作できたと思います。
良かった点
付属エフェクトが最高
とにかく付属エフェクトが最高です。
音はもちろんのこと、非常に使いやすくてツボを抑えている(少なくとも私のツボは)プリセットが揃えられています。
プリセットの数自体は多くありませんが、数が多ければいいというわけではなくすべて使うというわけでももちろんないので、一つ一つしっかり選択肢になってくれれば少なくても全然いいですね。
以下は使っていてよかった付属プラグインを紹介します。
EQ Eight
Liveの目玉エフェクトの一つです。
音が良くて操作性が良くて多機能で軽い、と相当評判が良い付属のEQ。
私は普段作編曲時にCubase付属のFrequencyを、ミックスマスタリング時にはKirchhoff-EQを使用していますが、EQ Eightを使っていてこれをCubaseでも使えたらと思ってしまいました。少なくともFrequencyより好き。
特に個人的に気に入っているのが操作性の良さと音の良さとオーバーサンプリングができる点。
作編曲とミックスで頻繁にこねくり回すEQは本当に快適な操作性が欲しいです。動きに全然ラグを感じなく、動かしていて本当に気持ちい。
そして純粋に音が良い。割と派手にブーストをしてもパシャパシャする感じだったりどうしても気になるようなトランジェントの鈍りがありません(トランジェントの鈍りはある程度はしょうがないと割り切っています)オーバーサンプリングも付いているのでマスタリングでも行けそうです。(流石に私はKirchoff-EQを使いました)
Multiband Dynamics
マルチバンドコンプです。
精密に調整するならやっぱり慣れてるWavesのC4やHarrison AVA-MCの方がいいなと思ったので、どちらかというとプリセットベースで作編曲段階での音作りで使いました。
やっぱりプリセットのOTT。かの有名なフリープラグイン『OTT』の元ネタです。
フリープラグインの方に比べて音がキレイめで、バキバキ感が少なめな印象です(それでもバキバキにはなりますが)
フリープラグインの方がよりド派手な音になるので、目的の音作りやジャンルによって使い分けられそうです。よって使いまくりました。
Glue Compressor
こちらも非常に愛用者が多いバスコンプレッサーです。
特にSkrillexが愛用していることでも有名ですね。
SSLを参考にしているとのことでパラメーターも大体SSLのバスコンプ。しかし音はダンスミュージックを想定しています。
アナログっぽい味付けよりも押し出し感の方が強く感じますね。バスだけじゃなくてアタックを出す用のキックなんかにも使いました。
AbletonではなくCytomicというデベロッパーの開発で、Cytomicのサイトでプラグイン版を購入することができます。このプラグイン版を他のDAWで使っているプロデューサーもかなり見かけるので、ぜひ使ってみてください。
Limiter
マスタートラックに使うことを想定したリミッター・マキシマイザーです。
Live使用者でも普通にPro-LやOzoneなど有名どころのリミッターを使用している人が多いイメージだったので完全にノーマークだったのですが、想像以上に普通に音が良かったです。と言っても私のマスタリングのやり方だと最終段のリミッターで過度に潰すことがないのでガッツリ最終段で潰すとまた見方が変わってくるかもしれませんが、少なくとも普段使っているLimitlessと比べても「まぁ、全然悪くないかな?」と思えるくらいで、作った曲では結局この付属のLimiterを挿していました。
どうやらプリセットを音作りに使う人もいるみたいなので、人気はあるっぽいですね。
希望としてはやっぱりオーバーサンプリングを付けて欲しいと言った感じでしょうか。
それ以外は普通にいいなと思いました。
Reverb
付属のリバーブプラグイン。こちらも純粋に音が良い。
動画では素材に合わせて柔軟に音を作っていますが、今回の私の曲ではプリセットベースで使っています。
比較的自然なルーム系っぽい短めの音からかなり派手めな音まで、満遍なくカバーしていて普通に良いなと思いました。
音良し軽い使いやすい、Cubaseでも使いたいですね。
Shifter
今回作ったのがTechnoということで、モジュレーター系ももちろん使いました。
その中でも特に使用感がよかったのがこのShifter。プリセットの中からRingを選んでDry/Wetを弄るだけで良い感じの求めていたリングモジュレーターがかかります。
Cubaseではモジュレーター系に正直不満があったので、かなりこの点に関しては差を感じました。
プリセットがとにかく使いやすくて音も良い。「これが欲しかったんだよ!」というのがドンピシャで出てきてくれます。
レイアウトが良い
今までずっと使ってきたCubaseとはもちろん違いますし、主要なDAWのデザインともやや違います。
Cubaseとは違って、一画面にすべてがまとまっているのがいいですね。この辺りはStudio Oneなんかも同じ設計思想です。
一番他と違う点は各チャンネルの設定項目が左に位置しているというところでしょうか。またCubaseと違ってチャンネルを選択しないとボリュームやらパンなどが見えないというわけではなく、必要な項目がシンプルなデザインですべて見えるように収まっているという点も素晴らしい。一目でチャンネル毎のボリュームやパン、ルーティングなどを見渡すことができます。
動作がとても快適
全体的に動作がとても快適です。
Cubaseで感じていたプラグインを入れるときの微妙なつっぱりなんかもまったく感じません。
特にブラウザ(Cubaseで言うところのMedia Bey)の動作が良くて、外付けのHDDから取り込んでいるサンプルもまったくラグなく再生してくれます。これに関しては再生するために専用の拡張子が作られるおかげで、ラグがない取り扱いができるみたいですね。
チャンネル毎に自動で色が振られる
新しくチャンネルを追加する度に自動で適当な色が割り振られます。
これが地味に便利で、私のような普段は人に見せることがない限りチャンネルに色をつけない人間にとっては本当に楽です。
また複数トラックをバスにまとめるとちゃんと、まとめた分すべて同じ色になってくれます。
再生時間も表示されている
Liveはタイムラインの上に小節が、タイムラインの下に再生時間が表示されています。
Cubaseの場合は同時に表示することができず表示を切り替えることになるのですが、両方表示されていると長い曲もしくは短い曲を作っている時に大変役立ちます。
メディア用の曲を作っている人からしても常に細かく再生時間を確認できるのは嬉しいのではないのでしょうか?
動画の扱いも強化しているようなので、そういった部分からきているのかもしれないですね。
私は主にTranceやTechnoなどの長い曲を作っている時に再生時間がよく気になるのですぐに見たいといった感じですね。
プラグイン自体をコピペできる
プラグイン自体を選択してショートカットでコピペすることができます。
これはCubaseではすることができないので、大変作業スピードが上がります。
付属ができるというのならまだ分かるのですが、サードパーティ製のプラグインも同じように扱えるというのは革命ですね。(Cubaseは付属でもショートカットでコピペできません)
本当の意味で直感的だなと感じる機能の一つです。
セッションビューはまったく使わないと思っていた
セッションビュー、Liveを語る上ではよく取り上げられる目玉機能の一つだと思いますが、よく推されるわりにみんな本当に使っているのでしょうか?
パフォーマンスをする人にとってはもちろん使われるのだと思いますが、主に楽曲制作しかしない私のような人間は本当に制作の中で使っているのかな?と思っていました。
よく言われるのは曲を作り始める最初の段階で良い感じのフレーズやサンプルを流し込んでおいて、いくつか同時に鳴らし良い感じだと思ったらアレンジメントビューに切り替えて組み立てる。いや普通にアレンジメントビューに置いておく方が早くない?と思っていました。
実際触ってみて、私の場合はやっぱりセッションビューのセッション部分は使わないですね。
しかしセッションビューはセッション部分以外に重要な機能がありました。画面下半分が他のDAWで言うところのコンソール画面になっていたんですね。
Liveってチャンネルにフェーダーの形をしたボリューム操作ノブ付いてないんだな〜なんて思っていたらセッションビューに付いていました。
セッションビューは実質コンソール画面なのです。
一画面で完結するような作りになっているLiveですがもちろんセッションビューを別ウィンドウに表示することもできるので、よくあるタイムライン画面とコンソール画面をモニター2枚にそれぞれ表示するようなセッティングもちゃんと行うことができます。
さらにセッションビューのコンソール下部にはそれぞれのチャンネルがどれくらいの不可があるか分かるメーターも付いています。これが本当に便利で、一目でどのチャンネルが重いか分かるのはすごい助かりますね。Cubaseにも欲しい。Cubaseでは別ウィンドウで表示するプロジェクト全体のパフォーマンスを表示するメーターしかありません。
セッションビューのセッション部分はまったくと言っていいほど使っていませんが、セッションビューを使っているかと問われれば使っていると答えます。
Max for Liveが強い
Liveの独自規格Max for Liveという、ざっくり言うとLiveだけで使えるVSTプラグインのようなものがあります。これが本当に良い。
サードパーティのものも世界中で有償無償問わず数多く公開されていて、さすが世界シェアNo.1DAWだなというのを感じさせられます。
基本的には作編曲の中で使うような音作り、もしくはシンセのような音源が多く、とても面白いものが多いです。
これじゃなきゃこの音作りは難しいのではないか?と思えるような独創的なものも数多くあるので、異彩を放つ音作りができるようになると思います。
エクスペリメンタルなサウンドに興味がある人にはピッタリ。
気になった点
ディエッサーが欲しい
Liveにはディエッサープラグインが付属していません。
とは言えマルチバンドコンプでほぼ同じことはできるわけですが、他のマルチバンドコンプとGUIがかなり違うので(ほぼOTTみたいな見た目)正直精密な調整をする気になれません。
またディエッサー単体の方がボーカルに関して言えば私は作業スピードが上がるので、できればLive純正ディエッサーも見たいなと思ってしまいます。
ピアノロールがイマイチ……
ピアノロールは正直Cubaseの方が痒いところに手が届くというか、自由度が高いなと感じます。
特にCubaseは左クリックで素早くカーソルの種類を変えることができるのが本当に便利で、他のDAWでもここは結構なかったりするので個人的に評価がとても高いです。
他のDAWだとショートカットで変えるかどこかにある一覧からカーソルの種類を変えることになると思うのですが、マウスを操作している右手一本で変えることができるというのがとても馴染みが良く作業時間を早めてくれていました。
グリッドの対応が少ない
グリッドが一番早くて32分音符までしかありません。
私は生ドラムの打ち込みなどでは64分音符を使うこともあるので、かなり死活問題と言えます。
Trapのハイハットなんかも32分よりも早い音を使うと思うので、対応して欲しいですね。
正確に言えばグリッドオフで調整して打ち込むことはできるのでしょうが、それでも時間がかかってしまうのでやはり対応して欲しいところ。
まとめ
Liveについて良かったところ、気になったところそれぞれを紹介しました。
結論としてはやはり想定している制作スタイルが違うということもあって、両方使っていくのがいいのかなと思います。
Liveは作曲からマスタリングまでトータルで一つのプロジェクトで行っていくような設計なので、一度ミックスの前に書き出してから行うのはやや不自由さがあります。
しかしダンスミュージックだったりのループさせて動きを作っていくような制作スタイルにはドンピシャでとても快適な作業が見込めるので、作りたいジャンルで分けていこうと思います。